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鈴木 裕美(すずきひろみ)= 書家
角田 お忙しいところをありがとうございます。このたび毎日書道展の、かなり大きな賞を受賞されたと伺ったのですが、まずここから話を進めましょう。
鈴木 はい、毎日書道展というのは全国規模の書道展で、今年は約3万5千点ほどの作品が出品されました。
角田 ほう、それはすごい。大変な数ですね。
鈴木 はい、日本で最大の書道展なんです。で、そのグランプリをいただいたということなんです。部門が9部門ありまして、その中で26名がグランプリになりました。私の所属する近代詩文書部門からはたった6名の方でした。
角田 なるほどね…。グランプリの位置づけとしては毎日書道展の最高賞ということですか。
鈴木 はい、そうなんです。
角田 その知らせが入ったとき、どちらにいました?
鈴木 自宅にいたんです。
角田 電話で?
鈴木 はい。今、教えをいただいている室井玄聳先生から電話が入りました。
角田 びっくりしたでしょう。
鈴木 それが、最初は普通にお話ししていたんですよ。「忙しい?」とか、何でもない話で…。で、しばらくして突然先生が黙ってしまったんです。どのくらいの沈黙があったんだか、かなり長い時間に感じました。
角田 ほう…、すぐに言わないんだ。いたずらだなあ。
鈴木 いえ、むしろ反対で、どうしたんだろうと思っていました。その後で、やっと口を開いたと思ったら「言葉が出ない…」っておっしゃるんです。しかも涙声なんです。これはただ事じゃないなって思いました。なにか悪いことでもあったのかと…。
角田 うん、そんな感じだとね、そう思うよね。
鈴木 で、「会員賞だよ」って絞り出すような声でおっしゃいましたね。
角田 う〜ん…。
鈴木 でも、それを理解するのに時間がかかりました。何のことだか自分でもわからなくなっちゃって…。
角田 会員賞っていうのは?
鈴木 あ、会員賞っていうのはグランプリのことなんです。それで、だんだん内容がわかってきたら今度は足が震えてきちゃって、血の気がサーッと引いていくような感じでしたね。
角田 そうなんだろうな。とてつもなく大きい賞だと、そうなってしまいますよね。
鈴木 ええ、そのまま私も泣いてしまって…。「ありがとうございました」って言うのが精一杯でした。
角田 この写真はなんですか? 大勢の前で書いているようですが…。
鈴木 これは席上揮毫です。グランプリ作家が、たくさんの人の前で実際に書くところを披露する企画です。
角田 グランプリの作家26人全員ですか?
鈴木 いえ、その中から2日に分けて5名ずつなんですが、私も選ばれました。
角田 ますます大変なことだ。ところでグランプリをいただいた作品というのはどのようなものですか。
鈴木 私が温めていた自作の言葉です。
角田 過去の誰かが作った詩とか文章ではないということですね。
鈴木 はい。最近、自分の言葉で作品を作ることが多くなりました。というのも7年前に父が亡くなりまして、それから父のことを題材にして書くことが多くなったように思います。
角田 なるほどね、この作品も?
鈴木 これも父と過ごした思い出のようなものなんです。父を交えてみんなで旅行に行ったときに、囲炉裏を囲んで夕食をとったんです。父もそれが本当に気に入ったらしくて、そこには何度となく行きました。そのことが脳裏に焼き付いていて、そのときの楽しかった思い出のようなものを書いてみようかなと思って作った作品なんです。内容は「囲炉裏の熾火」と大きく書いて、小さく「囲炉裏のむこうに懐かしい記憶」と書きました。
角田 そういう作品がグランプリというのは、うれしさ倍増でしょうね。
鈴木 そうですね。
角田 ところで、鈴木さんの作品を見ていると、女性が書いた作品とは思えないような豪快さや迫力があるんですが。ダイナミックな字を書く人だなと…。
鈴木 あ、はあ〜(笑)。よく言われるんです。この席上揮毫の時も、私が書くところを初めてご覧になった方々から、「姿からは想像出来なかった」という声が聞かれました。楚々として書くのかなと思っていた人が多かったようです。
角田 なるほど、できあがった作品だけじゃなくて、書く姿もダイナミックなんだ(笑)。
鈴木 そうなんでしょうかねぇ…。
角田 ところで、毎日書道展というくらいですから、作品の展示も行われますよね。いつ、どこで展覧会があるんですか。
鈴木 六本木の国立新美術館で、7月7日から8月1日まで展示されていました。
角田 終わってしまったんですね。もう他では展示されないんですか。
鈴木 これから全国10会場を巡回していきますので、他ではこれから見られるところがありますが、関東地方は残念ながら、もう終わってしまったんです。
角田 じゃあ、ほかの場所に行かないと見られない訳だ。全国っていうのは、どこを巡回するんですか。
鈴木 京都、愛媛、富山、広島、宮城、北海道、九州、山形、愛知ですね。
角田 東京を入れて10カ所ということなんですね。さて、書道というのが今はちょっとしたブームになっているようですが…。
鈴木 そうなんですよね。映画の「書道ガールズ」やNHKテレビドラマの「とめはね」などがありました。これらのこともあって、今は20年ぶりの書道ブームだとも言われています。
角田 高校生の間でも話題になっているようで、埼玉県の高校も活躍しているようですね。
鈴木 松山女子高校とか川口高校などですね。
角田 でも、ドラマにしても映画にしても、さらに現実の高校生でも、みんな女の子ですよね。男性はだめなのかなあ。
鈴木 なんででしょうね(笑)。
角田 テレビで書道の甲子園とか言ってパフォーマンスしている番組がありましたけど、あれも女の子だったし…。
鈴木 そうですよねぇ。うちの教室も高校生の子は女の子が多いですね。
角田 小学生などの小さな子供は男の子も多いみたいですが。
鈴木 はい、半々でたくさんおります。
角田 さて、今度は鈴木さん本人のことをお聞かせ下さい。書道に興味を持ったのはいつ頃ですか。
鈴木 小学校の頃からですね。母が書道を教えていたので、その中に混じってやってました。親に勧められたわけでもなくて、好きでやっていたんです。
角田 なるほど。それで中学から高校、大学までずっとやっていたわけですね。サークル活動も書道で?
鈴木 いえ、テニス部とかにも入っていました。でも、大学生の頃に母に相談しました。母には「本気でやるなら外に出て勉強してきなさい」と言われましたね。それで母の紹介で大阪から東京の東地滄 先生の所に月1回通うようになりました。それで、どんどんのめり込んでいったという感じですね。
角田 その東地先生のところで、今のご主人と知り合われたわけですね。
鈴木 そうですねぇ(笑)。
角田 日常生活って、料理を作ったり掃除や洗濯など、かなりゴチャゴチャしていますよね。それと静かな雰囲気の中で書を書いている時とは全く違うように感じるのですが、切り替えはうまくいきますか。
鈴木 私の場合わりとうまく行きます。それとは別なんですが、料理をするというのは、書道に似ていると思うんです。
角田 なるほど。
鈴木 材料を自分で決めて、それをどういう味付けにするかとか、煮たり焼いたり、スパイスをきかせたりする。それが書道に似ているなといつも感じています。
角田 書道に限らず、アートといわれるものには通じるものがあるように思いますね。料理というのは完全にクリエイティブなものですよね。
鈴木 創造力もそうですし、できあがったものを喜んでくれる人がいたり…。そういったところで共通点を感じていますね。
角田 今、ご主人不倒先生と一緒に書道教室を開いておられますよね。教室は何カ所くらいあるんですか。
鈴木 10カ所くらいでしょうか。
角田 その10カ所に教えに行くのですから、とても2人では足りないですね。
鈴木 はい。そのために講師の先生やスタッフもおりますから、みんなで一致協力してやっています。
角田 自分で書を書くのと、他人に教えるという行為はまったく別物だと思うのですが。
鈴木 違いますね。でも、書を習いに来ている子供たちには様々なことを伝えていきたいなって思いますし、私自身もそのようなことを経験して今に至っているわけですから、それは大切にしたいと思っています。
角田 一方、大人の場合はアートとしての「書」ではなくて、文字はメッセージを伝える道具だと考えていて、筆を使った本格的な「書」ではなく、道具として上手な文字を書きたいと思う人もいると思うんですよ。
鈴木 もちろんそうですね。そういう人も半分くらいはいらっしゃいますね。ケースバイケースで教え方も違うものになります。
角田 でも、筆を使った書道を基本から勉強すると、自ずとペン字なども上手になるのかな。
鈴木 あ、ある程度はうまくなりますね。
角田 じゃ、本格的にやった方がオールラウンドなんだ。
鈴木 そうですね、楽しいですし…。
角田 今後の抱負は?
鈴木 最初は上手な字を書きたいと思って始めたのですが、最終的にはその人自身の人間性が表れると思うんです。人として成長していかなければならないし…。それは故東地滄 先生や、今の師である室井先生、さらに主人にも教えてもらっていることです。ですから心も成長させていきたいと…。
角田 それが「書」なんですね。では今後の夢は?
鈴木 夢かも知れませんが主人との2人展などが開ければ嬉しいです。
角田 ぜひ実現させて下さい。今日はお忙しいところをありがとうございました。
■ゲスト紹介
鈴木 裕美(すずきひろみ)
★大阪市出身。昭和56年、東地滄がい氏に師事。昭和58年に鈴木不倒と結婚し埼玉へ移転。現在は室井玄聳氏に師事。
★平成6年創玄展毎日新聞社賞、同6年と10年毎日書道展毎日賞、同11年・16年・21年創玄展記念賞、同12年創玄展準大賞、同22年創玄展東京都知事賞、毎日書道展グランプリ。
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